会社から従業員への損害賠償請求、100%の請求に注意!

労働者への損害賠償の問題

昔私が就職活動をしてい時期に1次面接に行った会社でこんなことを言われたことがあります。

うちの会社は工場で精密機器を扱っている、なので工場の仕事を手伝う時にもしこの精密機器を落として壊したら給料から天引きになるからね!お兄ちゃん社会って厳しいだろ?

もちろんそんな会社怖くて2次面接はお断りしましたが、実際に会社の従業員に対する損害賠償って有効なのでしょうか?

そしてもし会社から損害賠償を求められたらどうすればいいのでしょうか?

社労士オザワ
この記事では会社の労働者に対する損害賠償請求の可否と、損害賠償を会社から求められた実際の裁判例をケースごとに紹介しています!

それでは、まず始めに会社が労働者に損害賠償出来るのか?についてお答えしていきます。

 

労働者への損害賠償って法的にどうなっているのか

労働基準法16条では賠償予定の禁止といって、条文の名前だけではわかりにくいですが、労働契約の不履行によって賠償額を予定することまたは違約金を定めることが禁止されています。

要は遅刻したら・会社の備品を壊したら〇〇円の罰金!というような賠償の額を決めてはいけないということで、労働者が会社に与えた損害を請求することを禁止しているわけではありません。

詳しくは、賠償予定の禁止について自分の体験談とともに書いた記事があるのでよかったら見てください。

そしてこの損害賠償については以下の民法の規定が適用されることになります。

●民法415条債務不履行による損害賠償

簡単に説明すると契約において約束を破ったら、相手方に損害賠償を請求できますよという条文

●民法416条損害賠償の範囲

これも簡単に説明するとその損害賠償の請求は、その請求の原因となったものだけに認められるという条文です。

また

●民法709条不法行為による損害賠償

この条文は、その損害の原因が起こした当事者に故意や過失があった場合に上に上げた契約を破るのとは関係なしに損害賠償が出来るというものです。

しかし、この損害賠償の責任が全て労働者に適用されるのはおかしくないか?使用者だって労働者を雇うにあたって、労働者が起こす損害のリスクを背負うべきだ!

それに使用者と比べてお金がないであろう労働者に全てを背負わせるのはあまりに過酷じゃないか?ということで裁判所ではこの民法の考え方を、労働者への損害賠償については制限しています。

それが、責任制限の法理と呼ばれるものです

 

責任制限の法理とは?

それではこの責任制限の法理とはどのようなものなのでしょうか?基本的な考え方箇条書きでまとめてみました。

労働者が仕事のミスなどにより、会社に損害を与えたら当然に労働者に損害賠償をするのでは無く、使用者がリスクを負うべきものだと考える

●通常は労働者に重大な故意や過失がある場合にのみ損害賠償が認められる

●またその損害賠償額も、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様・予防・損害の分散についての使用者の配慮の程度

また損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で、労働者が損害賠償の責任を負うことになる。

以上のような考え方が責任制限の法理です。

参考:厚生労働省、労働条件に関する情報サイト、裁判例・仕事のミスを理由とする損害賠償

社労士オザワ
もちろん従業員が会社のお金を盗んだり、行為が悪質な時はこの責任制限は適用されません!

では実際にどのような裁判でのケースがあるのか見ていきましょう。

 

会社の車を運転中居眠りで事故を起こした

茨城石炭商事事件 (S51.07.08最一小判)

●内容

これは石油や石炭を運搬することを主な仕事としていた会社で、主に小型貨物車の運転をしていた従業員のXが急な欠勤の代わりとしてタンクローリーを運転している際に、前を走っていたタンクローリーが急停車したためぶつかってしまい

相手方への車の損害や休業補償、また自社の車への損害等計40万円もの損害を出してしまったので、その金額を事故を起こした労働者に請求したものです。

●裁判の結果

始めに、裁判所は先に上げた責任制限の法理の基本的な考え方を説明し

そもそもこの会社は対人賠償の保険には加入していたが対物・車両保険には入っていなかったこと、そしてこの従業員は勤務態度が良好であった。

また当時は臨時的にタンクローリーに乗っていたことなどを挙げて、この損害賠償請求は4分の1に限って認めました。

参考:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会、労働基準判例検索

 

大口顧客が減少したのはお前のせいだ!と言われたケース

エーディーディー事件 (H24.07.27大阪高判)

●内容

コンピューター会社に勤めていたXはカスタマイズ業務に従事していましたが、自身のミスや不具合が多発した後に病院でうつ病と診断され退職しました。

そして会社はXが取引の際のルールを守らなかったこと、また業務を適切に行っていなかったことなどを理由に損害賠償を求めました。

●裁判の結果

先の裁判と同じく、裁判所は先に上げた責任制限の法理の基本的な考え方を説明し

この事案においては、この会社の負った損害は通常取引関係のある企業同士ではあることなので、労働者にその損害を賠償させることは適切ではないと判断されました。

参考:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会、労働基準判例検索

 

まとめ

最初に書いた疑問点、会社から損害賠償を請求されたらどうすればいいのか?

この記事で説明した通り、従業員行為が悪質な故意である以外は、会社からの損害居賠償は認められる可能性は低いし認められてもその全額が請求される可能性も低いです。

なので、そんな時は労働局の総合労働相談コーナーや弁護士などに相談することをおすすめします。

また会社においてはこれまで見てきたように、責任制限の法理によって会社の責任も大いに求められ損害の全額を労働者に求めることは難しいです。

そして、従業員が会社に損害を与えるようなケースにおいてはその前兆として、ミスが多くなったり遅刻が頻発してきたりなど労働者に些細な変化が起きてから重大なミスや事故が起こるケースが多いと思います。

そこでその前に労働者の変化に気が付いて声をかけてあげられるような対応が求められると思います。

以上で終わります。